自己復元システム
生物は自己の復元をある程度可能としている。
細胞分裂や膜の再生などにより、生命維持を可能としているわけだ。
殆どの物質にはその性質はないので、覆水は盆に返らず、
岩は雨風に曝され小石になり砂になり土になってしまう。
そこに有機物が溜まり、生態系は構築されるだろうけど
元の岩には戻ることはない。
…千代に八千代に細石の巌と成りて苔の生すまで
人間が作った道具だって同様で、放置しておけばやがてはタダの
ガラクタに成り下がる。
生命にも寿命があるが、その死までは自己復元能力を備えている。
自己復元する物質…そんなのが実現したらとんでもないことになる。
人類はこれまで何度となく不沈船というものに挑戦してきた。
しかしそれらのうちあるものは氷山に激突し沈み、あるものは
何十もの魚雷や爆弾で沈められた…
大型船は現在大体鋼鉄製である。鋼鉄だから重いし鉄の塊は水に沈む。
浮くのは金属製のたらいが風呂に浮くのと同じ原理だ。
空気がたらいの上にあり、当然空気は水より軽い。
しかし、たらいに一定量の水を入れると沈むし、たらいに穴開けて
放置しておいてもやはり沈む。
船が沈むのは穴が空くかひっくり返るかのどっちかが原因といっても良い。
(火災なども原因ではあるけれども)
転覆による事故は不安定な小型船に多い。
大型船が沈むのは穴が原因だ。穴からの浸水だ。
穴を小さく…水が入ってこないように…
かつては夢物語だったが、現代なら全く不可能でもない。
高分子吸水物質が1970年代以降実用化されてきたからだ。
意外に構造は単純である。ポリアクリル酸ナトリウムの分子式
[-CH2-CH(COONa)-]n
高分子ポリマーによる水土嚢なんてのも開発済みだ。
洪水が起きそうなところに大量の高分子吸水素材でできた土嚢もどきを
並べると、洪水自身が洪水を防ぐことになる。
大型艦に爆弾やらミサイル直撃して浸水しても、高分子吸水素材で
浸水を防ぐなんて案もすでに実行されつつある。
かつてイギリスが考えた氷山空母ハボクックが周囲の水で復元するという
奇想天外な発想すらある意味受け継がれたといえなくもない…かもしれない。
自己復元という意味では、完全にもとに戻るわけではないのだから
不十分ではあるのだけれども。
しかしながら人類、恐ろしい物質の開発に成功した。
すでにnatureなどで知っている方もいるだろうが、切れてもくっつく
という驚異のゴムが開発されたのだ。
材料は脂肪酸と尿素。簡単に手に入る。
…有機科学系てまだまだいろいろ研究行えそうだなこりゃ…
普通のゴム同様、引き延ばしまくれば千切れる。
だが…その切断面を圧力かけて合わせると…くっつく。
15分位くっつけると元の半分位の強度になり、さらに放置すると
ほぼ元の強度にまで戻るということだ。
これはまさに自己復元!原理としては水素結合によるものらしい。
水素結合はかなりバカに出来ない強さあるよな。
紙を水浸しにして乾かすと大惨事になることとかあるよね。特に1000円札が危ない。
形状記憶合金や形状記憶繊維の次は自己復元繊維出て欲しい。
…穴の開いた服ってなんであんなに悲しいんだろう…
しかし穴の開かないゴムっていろいろな意味で役立ちそうだな。